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飢えたるこどもたち (3)

暮らしの手帖 96号 特集・戦時中の暮らしの記録」(1968年8月) 掲載の「飢えたるこどもたち」から引き続き転載します。 ●わかもとの食べすぎ

午後、六キロほど離れた山の中へ、勤労奉仕で
木炭の運び出しに行った。空腹と肩にくいこむ炭
の重みで、ちょっとした坂でも、足がガクガクな
る。途中何回も休んで、漸く二俵のノルマを達成
した。

帰りみち、稲刈りがすんだ田の面は、黄金のむ
しろを延べたように光って見える。その上を右に
左に、無数のいなごが跳び交っている。このいな
ごをとって、二、三日袋に入れ、汚物を出させて
から、しょう油とともに炒るとおいしいと友達が
聞いていた。早速、同室の数人と、いなごをとり
ながら寮に帰った。

問題はしょう油である。調味料もごくわずかし
か配給はなかった。こんなことにわけてくれると
は、子供心にも考えられない。それにフライバン
か鍋も借らねぱならない、半ぱ諦めながら炊事場
をのぞいた。

寮母が三人、夕飯のおかずにする甘藷のつるを
洗っている。

「おぱさん」
遠慮がちに、低くささやくようにいうと、一番
年老いた寮母がふり返った。
「何か用ね」
「うん、これ」
黙って袋をさしだすと、ちらっと見ただげで
「いなごでしょう」
「うん」
「どうするの」
「あのう、炒って食べるとおい」いんだって」
「二、三日放っておかないと駄目よ」
「いいんだよ、よく炒るから」

空腹を察したのだろう、「じゃ、これを使いな
さい」とフライパンを貸してくれた。

「あのう、おぱさん、しょう油を少し」
いまにも雷が落ちるのではないかと、おそるお
そる申し立てると、複雑な笑いを浮べて、湯呑の
底にほんの少量、しょう油を入れてくれた。

コンロに火をおこし、跳びはねないようにフラ
イパンにふたをして、いなごをくり返し炒った。
最後にしょう油をたらすと「じゅっ」と音をた
て香ばしい、なんとも言えないおいしそうなにお
いが周囲にたちこめた。すばやく食器に移す。

ポリポリと歯ごたえがあり、適当に辛味もつい
て、――このときの味は、今でも、ありありと思
いだすことができる。

柏原は田舎町である。小高い森の鎮守様を基点
に、駅の方と、隣り町の方へと、二本の道路が走
り、それにそって、ひなびた店が並んでいるが、
十九年の十月頃には、食べ物を商う店など、一軒
もなかった。

店の土間はガランとし、台の上には申し合わせ
たように、埃がうっすらと積っている。

町全体が、ひっぱくした戦局に、死物のように
精彩を欠いていた。

こういう町の中からでも、猟犬が獲物を追うよ
うに、食べ物らしい物を見つけてくる。一つ置い
た隣室の横田が、ある目、意気揚々と帰ってき
た。手に瓶らしい物をもっている。

「何や、何や」
取り巻く同室の者に、掌でレツテルの所をかく
し、二、三度ちらちらとふってみせた。

つぎに栓をとって、一粒ずつ、さも貴重品のよ
うに、丁重に取り出して、配ってまわった。

うまい、すこし薬臭い、いや、はったい粉のよ
うなにおいもする、塩気も少しある。

「何や、何というものや」
「どこで売ってるんや」
「なんぼや」

勝手なことを口走りながら、しっかと握った横
田の掌を、三人がかりで押しひろげた。
「わかもと」
そう読めた。それが駅通りの薬局にあること、
定価が二円五拾銭であることを聞き出すと、わあ
っと喚声をあげながら外へとぴ出していった。勿
論、ぼくもその一人である。

後生大事に瓶を握りながら、一粒ずつ口に入
れ、薬臭さと、はったい粉臭さを満喫しながら、
鎮守の森で夕方まで遊んだ。機嫌よく口笛をふき
ながら帰々と、とんでもない事態が待っていた。
「わかもとを買ってきた者は即刻、瓶ごと舎監
に持ってこい」

厳重な達しである。張りつめた雰囲気がみなぎ
っている。

「どないしたんや」
おり合わせた者に聞くと、たった今、横田が全
身に発疹ができ、高熱で、ほてった体を寮母と先
生に支えられ、医者に連れていかれたこと、それ
は「わかもと」を、一瓶いっぺんに食べて中毒を
起したのだと聞かされた。

おどろいてポケットから瓶を取り出すと、私の
は三分の一ぐらいしか滅っていなかった。この時
だけは、差し出すことに、なんの未練もなかっ
た。(T.Y. 熊本県)
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プロフィール

西羽 潔

Author:西羽 潔

・1933年生まれの軍国少年OB。
・メーリングリスト「戦争を語り継ごうML」主宰。
・ウェブサイト:「戦争を語り継ごう -リンク集-」
・著書:「むかし、みんな軍国少年だった」(共著)

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